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総合園芸大系＿園芸総論 園芸の意義と其範囲 辻村常助 |
はしがき
学会の廣埜に未だ園芸学と云ふものが認められて居らない。其れに対して幾分の用意をして置き度いのであるが、僅か園芸二字の為に多くの紙面を費やす如きは、園圃の作業に何等の実益を興へない、謂は叉一種の閑事業とも見られる。然しながら吾等が園芸に志した頃は、園芸と云つても世間に通用せず、廔々演芸と誤られた事は、普く同好者の経験した処である。学者の間にすら、園芸は農業が集約に成つたものであると説く人が多く、或は椊物学の一分科であるとさへ云つた人もある。つまりは園芸なるものの定義が薄弱の為であるから、確かな回答を掴んで見たいと心掛けて、外国の書物等も出来る限り捜して見たけれ共皆目要領を得なかつた。Horticulture is Garden work, （園芸は園芸なり）と云つた風に、分つた様な分らぬ様な事を云ふ人のみ多くて、つまりは常識の問題とされて居つたに過ぎない。簡単に考へれば何でも無い事であり、深く考へれば殆ど際限が無い。何時迄経つても切り開きの付かぬ此山道に踏み迷ふこそ予が一生の上運である。
順序として先づ第一に、園芸の定義を正し、且つ語原と其の範囲を明かにし度いと思ひ、ここに未定稿ながら発表して読者の斧正を俟つ（ふせいをまつ）次第である。差当り本講座の於ては、まづ園芸の語源を、日本語、支那語、欧州語に分ちて語義を明かにし、次に園芸の意義につき東西諸学者の説を録してその定義に及び、最後に園芸の範囲として、園芸の分科及関係学課を説明して、擱筆するつもりである。
