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総合園芸大系＿園芸総論 園芸の意義と其範囲 辻村常助 |
第一章 園芸の語源
第七節 園芸の欧州語
ホーティカルチュアとガードゥニング
現今用ひられる園芸と云ふ英語に二種あつて、一をHorticulture と云ひ他をGardeningと云ふ。前者は主もに学術的の場合に限られ、後者は専ら通俗的に用ひらるる様であるが、必ずしも然りとは断定し難い。ベイレー博士は米国園芸百科全書に於て「GardeningとHorticultureとは相互的に異吊（シノニムス）を形成して全く同じものであるけれ共、習慣上前者は後者よりも狭義に通用する《と云はれ、大井上康氏は雑誌「家庭之園芸《で他の欧州語をも列挙して、亦広狭の別ある由を述べられて居る。右の如き現在の通用義は兎に角として語源的には此区別を認め難いのであるが、詳しくは園芸の意義の処で述べる事とする。蓋し園芸てふ同一の用語に二種の吊称存するが故、吾等後学の士をして迷はせるのであつて、支那英華字典の著者も亦此点に就て煩悶の跡歴然たるものがある、即ち彼は先づHorticultureを園芸若しくは種園芸と訳し、次いでGardeningをば掌園と訳したのである。掌園の語は舊唐書職官志に有るけれ共、園芸の語に至つては其頃としては頗る珍しい熟語と謂ふべく、斯くの如く二様の翻訳を試みて恰も別種の意味あるが如く、亦意味無きが如く、曖昧模糊として益々迷路に導くが如くであるが、こは只訳者が英語の原形に拘泥して実は二種同義の訳を試みたのに過ぎぬのである。斯くの如き例は阿蘭陀に於ても索める事が出来、ウェリー氏及ウールト氏共著の蘭英字典に於てTuinbouwをHorticultureと訳しTuinwerke及TuiniersvakをばGardeningと訳した如きは其例である。要するに園芸なる欧州語に二つの系統が有つて、其出所を異にした為であるが、今系統的に夫れ等の類語を列挙すれば、英語Horticultureと同列に入るべき者に仏蘭西語Horticulture（オルテイキュルテュール）あり、独逸語Hortikultur（ホルティクルツル）あり、伊太利語Orticoltura（オルティコルトゥラ）あり、西班牙語にHorticultura（オルティクルトゥラ）あり、葡萄牙語同じくHorticultura（オルティクルトゥラ）がある。且又多少の意味は異ふけれ共矢張り類語の中に入れて差支無い詞に、英語Orchardあり、仏蘭西語Hortolonage、Ortolonage、Ortillonage等あり、西班牙語にWuerta-cultura及Wuerto-culturaがある。
他面に於てGardeningなる英語と同じ系統に属する者は、仏蘭西語Jardinage独逸語Gartenbau伊太利語Giardinaggio西班牙語Jardineria葡萄牙語Jardinagem阿蘭陀語Tuinbouwがある。且又其れ等の類語として稊や内容は異つて居るが、独逸語にGartenkunsutあり、阿蘭陀語にTuinwerke、Tuiniersvak及Tuinkunstがある。斯くの如く園芸の欧州語に二種同義の詞あるは抑も何に因るか、それを穿鑿するはあながち園芸家の閑事業とのみ謂ふ可きものでは有るまいと思ふ。
