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総合園芸大系＿園芸総論 園芸の意義と其範囲 辻村常助 |
第二章 園芸の意義
第一節 園芸の定義に就て諸学者の説
農業と園芸との根本の相違点
右の農業なりと云ふ詞を、仮に業務なりと改めても内容に何等の変化は無い、氏は当時農商務省農務局長であつたから、農と云ふ事を強調されたものであらう。要するに、以上の諸学者が何時も農業と云ふ事が念頭を離れないのは、園芸を単なる耕作業即ち椊物栽培業と考へて居る為である。勿論園芸を歴史的に考へれば、夫れらもあながち間違では無い。又農業を広い意味に解釈して凡て地産の業とすれば、其中に園芸も含まれるとするは無理でない。併しながら現時の園芸なるものは最早や単なる地産業で無く、土地と云ふ因子が甚しく縮小されると共に、農とは無関係なる「美《と云ふ要素が、極めて樞要の位置を占むるに至つたのである。
農学博士池田伴親氏は言ふ、
園芸とは園芸学の理論を実地に応用し、果実、蔬菜、花卉、種苗の生産を目的とする一種の農業にして、庭園術の如き亦園芸の中に包括して論ずるを常とす、其仕事は農業中最集約なるもので其性質上家畜の如き動物は、園芸直接の要素ではないのである。
然らば園芸学とは如何なるものであるか、斯道の大家リンドレー氏が下した定義は、左の如きものである、即ち「園芸学とは椊物の栽培・繁殖及之が改良の方法と其由て来る所以の学理とを研究し、是等の知識を秩序正しく排列したものである。《是は園芸学の技術的方面を云ひ表はしたもので、此他に経済思想もいるし、又審美学の観念も肝要である。園芸が農業の一分派たる以上は、固より此が攻究には農業に関する知識が必要で、就中椊物を取扱ふ者であるからは、椊物の形態生理分類よりして、生態等諸学科に通暁するの必要がある事は、余輩の贅言を竢たないのである。（池田伴親―園芸学第八頁）
