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総合園芸大系＿園芸総論 園芸の意義と其範囲 辻村常助 |
第二章 園芸の意義
第一節 園芸の定義に就て諸学者の説
ベイレイ博士の下せる定義
斯界に於る世界的の権威ベイレー博士は曰はく。
園芸は花卉、果物、蔬菜、装飾及観賞椊物を栽培する事である。椊物の栽培に附帯して椊物改良術を伴ひ、馴化による椊物の変異は生物学及生理学の科学的応用によつて各種の産物を生産する。
第一に園芸は芸術である、然しながら凡ての点に於て科学に密接なる関係がある。農業とは確定的の限界が無い事、恰も林業が広義に於る農業の一分科なるが如く、園芸も亦土地より産物を擧ぐる所の職業である。
習慣上農業の範囲は穀物、牧草、主食物、繊維等の生産、及び畜産動物の飼養の如きを其所管と為し、斯かる狭義なる解釈を用ふる際には林業と園芸との分科的観念が成立する。又種苗養成は北米にては園芸の範囲とされる。
語源的に農業は耕地作業（field）である。園芸は明かに囲繞地内の仕事である。尚ほ又Horti cultureと同様なる者にGardeningがあつて、アングロサクソン語gyrdan即ち動詞gird（囲む）の語と同一源であるが、習慣上garden及gardeningはHorticultureなる術後に含まるる意味よりは、遥かに狭い面積及小経営に適用される。
農業と園芸の差別は単に習慣に基くのみ、例へば甘藷は一般に北米にて園芸作物と為すに反し、瓜哇薯（ジャガイモ）は農作物と認めらるる如きである。
園芸と椊物学との間にも確定的の限界は無い、椊物の科学は椊物学であるが、椊物に関して最も有意義なる特殊の問題（人生須要の関係）に於ては、椊物学者は之を園芸家の所管に譲る。則ち園芸は椊物学と農業との寧馨兒（アイノコ）である。
併ながら園芸は以上を以て終始する事莫く、尚ほ美の表現を掌り、椊物の姿態色彩を恰も画家が素帛に其力作を表出する如く、時として椊物の（外形）夫れ自身の描写のみで無く、天来の個性や生命を之に由て表現するのである。
画家は優秀なる創作力と巧妙なる描写とによつて、芸術上卓越なる位置を占め、且巧なる風景画の主眼点は、屢人造風景として表出さるるを常とし、凡て比類の努力こそ洵に近世芸術家の採るべき進路である。
絵具の製造が画家に欠く可らざる如く、園芸は結果に於て、美の表現に貢献する素よりであるが、之を以て直ちに園芸を指して芸術とすべきでは無い。併しながら少くとも造園術なるものは、芸術の基礎を形くるものである。
