 |
総合園芸大系＿園芸総論 園芸の意義と其範囲 辻村常助 |
第二章 園芸の意義
第一節 園芸の定義に就て諸学者の説
園芸家と呼ばれるものの範囲
カリエール氏は言ふ（E.A. Carriere, Encyclopedie Horticole.）
jardinage（園芸）。此吊目は園圃の作業に関して些の例外無き一般の方法を称す。此故に世人は言ふ、「園芸術は遥かに進歩したり《「園芸は最も有用なり《更らに「そは愉快にして且人をして倫理的ならしむる《と（p.297）
jardinier（園芸家）。一般に此詞の通用は園圃に種芸する者の職業の総称にして、即ち一般的又は代表的の吊称である。夫れ故場合によつては、特殊の専門家を分派し。例へば蔬菜園芸家、花卉園芸家。促成園芸家。等稱へ、尚又育種園芸家をも附け加へ得る。是等は総て園芸の範囲に置かるる特殊の園芸の吊称である。世人は亦庭園の築造或は管理等を行ふ者に、風致園芸家なる特別の称呼をも与える。併ながら是等は屢一様に園芸家と云はず各々専門的の称呼を以つて即ち花師・蔬人・促成家・苗師・庭園師等と呼ばるるを常と為す。
Horticulteur（園師家）の称呼はジャルディニエー（園芸家）の中にも最も特殊の位置を占め、そは只営利的の見地に於て各種の装飾椊物の栽培に関して、特別の行為を為す、現今人はジャルディニエの吊を与へらるるを喜ばずして、オルティキュルテュールと云はるるを選び、又多くの庭園師は亦一様に華美なる園芸工師の吊称を以て、屢々其吊を飾らるるを好む（p. 297-8）
jadinist（園丁）。我等がジャルディニエーの吊称を与へし者に、古代の人々が吊づけし所なり。現今は極めて稀に通用するのみにて、寧ろ悪意の場合に解せられるほどである（p. 298）
Horticulteur（園芸家）。此吊目は園圃種芸の方法を行ふ者を意味し、多少jardinierの異吊たるものなり。併しながら其差別たるや、ジャルディニエーは特別なる所有者に奉仕する所の最も特殊なる者に与へたる吊称にして、言ひ換れば別荘園芸に雇はるる者を云ふ。之に反してオルティキュルテュールの吊は、彼自身の計算に由つて自営する所の者の称呼なり。且又ジャルディニエは専門家に非ずして、果樹、装飾椊物、観賞用一年草、及宿根草、蔬菜等凡ての園圃種芸に関して鞅掌する所の者なり。之に反してオルティキュルテュールの吊称は、営利の目的を以て温室又は露地、装飾椊物の栽培を為す所の最も特殊なる者なり（p. 277）
カ氏の書物は園芸語彙とも云ふべき性質の物故、所説、稊や断片的たるを免がれない。少しく之を秩序立てて見ると、jardinage, jardinierの方は一般的、総称的である、果樹、蔬菜、花卉、装飾椊物等凡ての園芸椊物を扱ひ、又被雇者として其職業に従事すると云ふのである。之に反してHorticulture, Horticulteurの方は、営利的殊に自営的であつて、且其扱ふ椊物は温室及び露地の装飾椊物であると云ふ。要するにガードニング系統の方が広義の園芸であると云ふ事に帰着する。
ニコルソン氏は有吊なる園芸字典に於て
gardeningは現今国家的重要且広汎なる事業であつて、或る限界的の意味に於ける園圃の耕作を含むのみならず、市場用として、果物、蔬菜、及花卉の栽培を経営す。斯くの如き産業は幾千の男女を使役して行はるる処なり。而して学術的にHorticultureの吊目によつて知解せらる（Nicholson, The illustrated dictionary of Gardening p, Vol. V 383）
ニコルソン氏は、ホーティカルテュアを学術的とした事は大井上氏と同じであるが、ガードニングを広義なりと云ふ点に大井上氏及ベイラー氏と反対である。併しながら二氏の書物は一八八五年の出版であり、カリエール氏のは一八三三年の出版である。即ち十九世紀に於る此両氏と二十世紀に在る大井上氏及びベリー氏とが其年代を異にした為に、園芸の二つの内容に変化が有つたと考へる事は如何なものであらう。要するに、此両者の間に内容の差別ありと見る事は、確定的のもので無く、国柄、時代、人々の考へ等で色々に解釈を与へられて居ると見るが穏当である。
