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総合園芸大系＿園芸総論 園芸の意義と其範囲 辻村常助 |
第二章 園芸の意義
第二節 園芸の定義結論
園芸と云ふものが実際何であるかを識る為に、著者は多年心掛けて学者の定義を収集して見た。勿論渉獵（シュウリョウ）甚だ浅く既記に漏れたる所多々ある可きは他日の補修に譲るとして、偖て是等諸学者の説の中から塁同的のものを抽き抜いて、統計的にまとめて見た処で園芸の定義なるものは要約されない。唯統計に基く所は、園芸分科の範囲であつて、例へば果樹・蔬菜・花卉・庭園及び育種の業務を園芸の分科と認める事に一致する。併しながら是等を通じて一つの定義を与へる為に、冗長なる言辭（ゲンジ）を用ゐたのでは效が無い。即ち最後に一言要約的の定義なるものを見出す事を務むべきである。
著者の与へたる園芸の定義
思ふに諸学者の脳裏に園芸なるものの意義が、共通に閃いて居るのを認め得らるるけれ共。惜い哉、其説明に一点晴を投ぜざるの憾がある。後学著者の如きが之に対して烏許（オコ）の言説を弄するは僭越の譏（ソシリ）を免がれぬとは云へ年齒（ネンシ）学歴を以つて論ずべきで無い。聊か要旨を述べて大方の叱正を待つ次第である。
園芸とは園圃の芸術にして、専ら特殊の博物資料を用ゐて其効果を完ふせしむ。而して之が基礎智識を園芸学と言ひ、其応用を園芸術と言ふ。
著者は先づ右の如く園芸の定義を与える。敢えて之を注解する必要も無い様であるが、万一の疑義を患へて婆心ながら聊か説明を添加する。
先づ「園圃の芸術《と云つた。園なるものの説明は前章数千言を費した所であるが、現今の用語としても限られたる土地と云ふ事に仕度い。但し挙げ足を取つて地球の上が既に有限ではないかと云はれては困る。此限られたると云ふ意味は必しも藩籬牆柵等の構造物を用ゐるとのみ云はぬ、経営者次第で囲繞の方法を講ぜざる多少の例外をも認め度い。即ち農耕林業等の広大なる開放地に対して、区別を明白にしたもので有つて、謂はば限局的の椊生地を云ふのである。勿論是にも大小の差別はある。例へば米国や独逸の果樹園は、往々我邦の農耕地より広大である。併しながら米独の農場は又其果園より一層大なるものが多い。即ち経済事情の異なつた者を互い違ひに比較する意味では無く、同じ状態であれば農林地は無辺であり、園芸地は局限的に云ふ主旨である。且又一方には園圃の意義を極めて自由に押し拡げて、例へば盆裡に一杯の土を充たし、之に卉木を養ふの類、亦以て小なる園圃と觀じ度い。
次に「芸術《であるが。茲に園芸を芸術としたのは、賛成者もあり又反対者も多い事と思ふ。園芸は読で字の如く、之を園圃の芸術と考へるは誠に自然であるに拘らず、著者は既に語源としては、園圃の芸術と云ふ意味から成立した詞で無いと説いた。而して此処に到つて始めて園圃の芸術であると云ふ、一見自家撞着の譏（ソシリ）を免れぬ様であるが、夫れは語源の詮索と現在の通用義とを別々に取扱つた為である。現時の園芸は確かに一種の芸術で、偶ま園芸と云ふ過去の成語が其内容に一致したものである。然らば則ち何故に園芸を指して芸術なりとするのであるか。
