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総合園芸大系＿園芸総論 園芸の意義と其範囲 辻村常助 |
第二章 園芸の意義
第二節 園芸の定義結論
園芸を芸術とする理由
園芸を芸術とする理由は、園芸美を表現するからである。併しながら此形式は循環論法に過ぎないから、今少し詳しい説明を与へねばならぬ。
庭園を以つて芸術とする事は、古来全く異論が無い。夢想の枯淡、相阿彌の幽玄、利休の清洒、遠州の華麗、若しくは光悦の奇警の如き、千歳独歩の芸術的作品であると共に、古来東洋の妙技とせる盆栽なるものは、之を庭園に比すれば其作出に就て個人的に傑出の吊を後昆に垂れし人あるを聞かぬけれ共、其技術に於ては同じく芸術とするに何人も異存が無い、是等庭園盆栽等を以て花卉、蔬菜、果物等の単なる地産品と較べると、其芸術的鑑賞の価値に於て、雲壌の差を認め得るのであるから、人往々前者を以つて芸術の範囲に置き、花卉、蔬菜、果物の生産は、寧ろ農業の一部であると為して、則ち園芸界を二分せんと企てられるのである。併しながら農業の所管は、人生の営養を掌るを主眼とするのであるから、専ら其産物が美味よりも寧ろ滋味に富み、且つ多量に生産して多くの民生を養ふに適すべきである。之に反して園芸品は形状色澤香味の優れたものを作る事が本意であつて、即ち農の実利を主とするに対して、園芸は却つて趣味に生きるのである。此責任分界点が明白でないと農と園芸との差別が曖昧に成る。勿論農産物と雖風味の如何を全く顧みないと云ふ訳では無いが、単に其程度を異にする許りで無く、地産の目的及出発点が双方全く相反するのである。
斯く言へばとて園芸品は総べて芸術品であると云へない。譬へば医は病を治むるの術であるが、吊医と庸医とは効果に於て同じからざる如く、園芸素より芸術であるが之を行ふ人によつて亦格段の差を生じ、芸術往々愧術たるに至るは亦止むを得ざる所。彼の絵画、彫刻、詩歌、音楽等は皆芸術なりと云ふと雖、川柳に「墨つけてあたら扇を暑うせし《と云ふ事もある。音楽も亦囂々（ゴウゴウ）しい許りで一向芸術に成らないのが近頃流行する。詩歌亦然りで、要は美の表現の巧拙に帰するのであり、亦世間賞鑑の程度高下によつて好悪の岐れ道となるのであるが、天才の尊いのは此処である。努力精進の必要も夫れである。時代が真に芸術を解する人々によつて造られて居るか否かも関係する。
現代に在つては、其産出さるる花卉、果物、蔬菜等を指して、直ちに芸術的作品であると云つたなら、識者は呵呵大笑して愚や及ぶ可らずと云ひ、若しくは痴漢度し難しと云ふかも知れない。併しながら夫れに由つて園芸作物を芸術品に非ずと為し、園芸は芸術ならずと否定する理由にはならない。今茲に美学や芸術論を擔ぎ廻つて論議する暇は無いが、古代の野生に似たる果物蔬菜と現時の園芸品とを比較する時、蓋し思ひ半ばに過ぐるであらう。園芸家が多大の苦心を費した人為淘汰の賜物であつて、決して「神《と「天然《とのみの作品で無く、老子の所謂人之を為すである。育種に肥培に画家の彤管に於る。舞曲の管絃に於ると。美の表現に手段の相違あるのみである。バカノは云ふ「芸術は自然の中に散布したる美を統合するによつて成立す《と、則ちバ氏の一言を以つて、善く園芸品の芸術たる地位を保證する事が出来よう、
