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総合園芸大系＿園芸総論 園芸の意義と其範囲 辻村常助 |
第二章 園芸の意義
第二節 園芸の定義結論
園芸学と園芸術
著者は特に園芸学と園芸術と云ふ二つの術語を設けた。蓋し（ケダシ）学と術とは鳥の両翼であつて、園芸に於ても素より上可分の関係に在る。園芸学有つて然る後に園芸術ありと云ふのでは無い、学の応用を俟つて術始めて完きを得ると共に、術の精正よりして竟に（ツイニ）上変の学則を発見し得るは云ふ迄もない。一切の経験の純なるものは則ち学であり、学的法則の精なるもの発して亦術と成る。従来の園芸学なるもの吊は学と云ふと雖真に学たるの資格に欠け、舊来（キュウライ）の園芸術称して術と云ふも未だ理に当つて正しからざるの憾多し、則ち園芸学と園芸術とが渾然（コンゼン）融合して或は一体を成し、時に■んで各自の特色を発揮すべきは之を将来に期待すべきである、
最後に猶（ナオ）一つ考察を加へ度い事は、世往々園芸なるものが、屢（シバシバ）実利の方面に役立つから園芸は必要であると云ふ説である。園芸の效益、園芸と人生、夫れ等の問題は、他日稿を改めて論ずる機会を得度い思ふけれ共、本章に於ては先づ別問題である。併しながら一言辨じて置き度い点は、園芸品の生産、例へば我邦の現状に於ても園芸作物の栽培面積は百万町歩を超えて、畑地総面積の三分の一を占め、年額五億円以上に達する如き例を捉へて、園芸は必要であると云ふ類の世間に最も多い立論に対して、聊か反対意志を表示し度い。
我々は世の中がもつと寛つたりした品のよいものに成る事を希望して居るのであるが、事実は反対に当分は益々世智辛くなるらしい。殊に我邦の如き貧乏国、極端に云へば竈の灰迄も金に換え度い様な国柄では、此金銭と云ふ事に園芸を結び付け度がるのも一応■の事である、既に述べた通り園芸を楽むとも園芸を研究事項とするとも、及至園芸を職業として生計の資と為し、或はそれによつて国家地産の増進を企てようとも、若しくは園芸的の生産組織を以つて近頃八釜しい食糧問題解決の資に供するとも、元より当務者の随意であつて、其為に園芸その者の本体に何等の掣肘（セイチュウ）を受ける筈は無いのである。然りと簡単に園芸品の産額或は園芸業に従事して生活を営む者が多数であるが為のみの理由で、園芸の存在理由を肯定しようとするならば、そは云ふ迄も無く政治家風の考へ方であつて、園芸を或目的の宣伝の具と為すに過ぎない。著者は斯かる豫（アラカ）じめ有目的の立場から「園芸《を眺めるつもりでは無い。虚心坦懐に即ち客観的に園芸と云ふ者の本体を見詰めた時、茲に始めて夫れは是迄述べた如く「園圃の芸術《であつたと言ふ結論に到達したのである。
