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総合園芸大系＿園芸総論 世界園芸発達史 大井上康 |
はしがき
園芸がどう云ふ風に発達して来たかと云ふ事は、園芸に従事するものにとつて尠からぬ興味を惹く事があるが、今日までまとまつて書かれたものがなく、甚だ物足らなかつたのである。
本邦に園芸の起つたのは、随分古い事であつて、而も其の発達程度も決して泰西諸国に劣つて居らなかつた様であるが、何事にも組織的才能に欠けて居つた東方の詩人国では、其の発展に行き詰まりを生じ、ずつと後から発足したヨーロッパ諸におくれてしまひ、今では、菊、朝顔などに漸く其の餘影を止めて居る様な有様である。
世界の園芸発達を研究すると云つても、余り古い時代には記録も少く、之を正確に知る事は可なり困難な事であつて之を専門的に研究するにしても短日月ではよく、之をなし得ない位であり、又古代にあつては園芸と農業の区別も明かでない。故に後述する処も、要するに太古時代にあつては、農業の歴史そのものである部分も決して少い事ではなからうと思ふ。加之園芸と云つても、昔は造庭との間に区別なく、発達したものであつて、別科の造庭に関する講義と重複する点も多少は之を避け難い様に思はれる。之れより余が記述せんとする園芸は、椊物を主とした園芸であつて、家とか其の庭園に付随した材料としての椊物をなるべく扱はぬ様にして、重複を出来る限り最小限度に止めたいと考へて居る。
