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総合園芸大系＿園芸総論 世界園芸発達史 大井上康 |
二、中世時代園芸の発達
文明没落後の園芸
ローマの勢力衰へて北方の蛮人侵入し来り、世は一時暗黒となつて文芸芸術哲学等のすべてが光を失つてしまつた。園芸は元来生活程度の低かつた昔にあつては必需品を産したのではないから、文明の没落と共に消え去つたのも無理はないのである。農法も此の時代の初期にはラテン式は、無残にも蛮人達に踏みにじられてしまつて、遂に全く忘れ去つてしまつたのである。時之れ戦乱の時代人々は戦ひて倦むところなく人民は安んじて居られなかつた。
然し此の戦乱は又園芸の上に思ひもかけぬ発達の動機を与へたのである。それは相次で起る戦乱の結果、城壁内蟄居を余儀なくされた人達は広い庭園や果菜畑をすてて猫額大の地に椊物を培ふ必要が起つて来たので、自然盆栽の発達を来した事である、盆栽と云つても日本の盆栽の如き風致的なものではなくて、今日の洋風鉢作り法であるのは云ふまでもない。それから彼の大仕掛けで無益な十字軍遠征が其の主たる目的を遂げ得なかつたばかりに、種々東西文明の接触に功あつた如く、園芸の上でも亦多少の功績を残したのであつた。十字軍の将士達は東洋のバラやチューリップを土産として本国へ持ち来つて之を国民間にひろめたため、花卉の種類が急に増したのである。彼等は又無花果や葡萄の珍しい東洋種をも国内へ移椊したのであつた。
