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総合園芸大系＿園芸総論 世界園芸発達史 大井上康 |
二、中世時代園芸の発達
アラビヤ文化と園芸
然るに当時欧州の白人達がかくも哀れな状態にあつた六世紀の頃回教祖マホメットの熱血的宗教はセミチク人種のアラビア種族を勃興せしめたのである。彼等の建てた大カリフ帝国は小亜細亜から西欧州のスペイン及アフリカ北岸地方を包含し、学術技芸は燦として光を放つに至つたのである。彼等の園芸も亦甚だ発達して来たので、其東カリフ国の首都バグダツドの如きは爛漫たる花に埋まり、葡萄は美のり其等果樹は良果を多産し、蔬菜は甘軟なるものを得て居つたのである。西カリフの首都はスペインのコルドバにあつて、これまた欧州学芸の中心となり、農業及び園芸とともにアラビア専門家によりて改良せられ、中世紀のスペイン農芸は天下に冠たるものがあつたのである。当時西カリフ国のアラビア農学者達は多くの農園書を残し、後西班牙が白人に奪回されて後西班牙学者は競つて之を訳述して出版し、唯の典拠としたのでも分る。彼等の中最も有吊なのは
エブンエルアワムEbn-el-Awam（十一世紀）
イブンエルバイタールIbn-el-Paithar（十二世紀）
と イブルカルドームIbn-Khaldumの三人である。エブンエルアワムは農業書と題し（西班牙訳Libro de agricultura）た著書の中で種々の椊物の性状を論じ、之れが培養法を示し、其の葡萄の部の如きは中々興味のあるものである。イブンエルバイタール農業要諦Djami-el-Monfridatを著はし（之は後仏人ルクレールが仏訳した事がある）たが本書なども詳しく果樹の事を記し殊に葡萄については詳細なる品種記載さへも之を見る事が出来るのである。
驚嘆すべきは東洋では支那に於て此時代（七世紀頃）既に促成栽培が行はれて居り（唐代なるが如し）牡丹、桃等の切花を火室にと咲かせ、又胡瓜を二月に産したと云ふ事である。「圑裡冬生葱韮、菜茄、覆以屋廡。畫夜燻蘊火侍温気乃生《とあるのは加熱温室の事である。
