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総合園芸大系＿園芸総論 世界園芸発達史 大井上康 |
五、果樹園芸の発達
１ 葡萄
ボルドー合剤の発明
葡萄に最も普通の疾病たる露菌病は、一八七八年に至つて始めて仏国に流行を見たので、当時フィロクセラ虫のため狂乱して居つた葡萄栽培者達は、前門の虎未だ去らざるに再び後門に狼の現わるるを見たのであるから、其の驚愕はけだし思ひ半ばに過ぐるものがあつたであらう。伊太利にも此の病気が流行し出したので、当時ベルッシ Belussi は種々苦心の末、生石灰乳（ベルッシ法は生石灰三キログラム水一〇〇リツトル）を樹の全部にぬる法を案出した。之を石灰装甲（コラッツァートディカルチェ Corazzato di Calce）と呼んだのである。然し之は効果が少ないのみでなく、手数であるので、間もなく実行するものがなくなつてしまつたのである。然るに一八八三年三月一五日彼のボルドー益と今日称する処の合剤が、仏人ミラルデ Millardet によつて発表されたので、各地に於て之が研究及試験が行はれ、其の効果の著大なるのが解つたので、一斉に之を採用する様になり、最早や露菌病などは少しも恐るるに及ばなくなつたのである。
温室葡萄の著吊品種マスカット・オブ・アレキサンドリア
品種の進歩も著しいものであつたが現今の優良種必ずしも新しい創成ではなくて、彼のアレキサンドリアの如きは二千年、ネヘレスコールの如きは四千年もの古い品種である。が近来になつて出来た優良品も少くはない。カノンホール・マスカット、デュークオブハックルーチ、ホワイトプリンス、ゴールデンクイン、シトロンネル、マドレイヌアリス、エンスペクトールランドワン、シャスラーローズサロモンの如きは、ウィニィフェラ種中の新らしく作出されたものの優品である。更に最近になつて米国及仏国で所謂直産種が作出され出した。之は果実をとる目的の米国種及其雑種を指すのであつて、ロージャー、マンソン、キャンベル、ムーア、ヘドリック等は功績多く、仏国ではセーベル、クーデール、ミラルデ、バコ、等は直産種の他幾多貴重重なる砧木を作出して、近世式葡萄栽培の基礎を開いたのである。
