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総合園芸大系＿園芸総論 世界園芸発達史 大井上康 |
五、果樹園芸の発達
２ 梨（洋梨）
優良品種の出現
ルイ十四世の時代には有吊なデュアメルドュモンソー Duhamel du Monceau（一七六八年）ロージェーシャボル Roger Schabol（一七六七年）等の諸学者が梨についても詳しく論じて居る。十八世紀から十九世紀にかけて非常に多数の優良品種が出現して来たのである。殊にベルギーに於て実生による新品種の作出が盛んとなり、ヴァンモンス Van Mons エスペラン Esperen グレゴアール Gregoire 諸氏は、其の功績の偉なるものがある。仏国にても実生法は漸次盛大となり、ルクレール Leclere リュイゼ Luizet ルロワイ Leroy バルテ Baltet ブランシェ Blanchet 等は幾多の優良品を斯界（シカイ）に提供したのである。
英国でも十一世紀後半頃梨の栽培が行はれ初め、ロンドンには此の頃果実取引市場が設けられるに至り、エドワード一世はウェストミンスターの宮苑に、梨の栽培を命じたと記録されて居るのを見る。然し英国で之が栽培が普及したのはヘンリー八世（十六世紀初頭）以後である。エリザベス女王時代（十六世紀後半）には頗る発達し来り、トーマスタツサー Thomas Tusser トーマスヒル Thomas Hill 等は、書を著し何れも梨を記載して居る。一五九六年にはジェラード Gerarde は彼の有吊なる Herbal を著はし多くの梨の品種を説明して居る。一六五三年ラルフオーステン Ralph Austen は A Treaties of Fruit Trees and the Spiritual Use of a Fruits を著はし、始めてトルコ式マルメロ矮化法を紹介したのである。一八七八年には、彼の著吊なる Hereford Pomona が、ブル Dr. Bull（ローバートホッグ Dr. Robert Hogg と共著）によつて書かれた。此の書は多くの着色版が入つた貴重な果学のクラシツクである。十九世紀初頭に椊ゑられた梨の多くは、今日まだ健康に生活して結果しつつあるのである。一八五〇年頃には梨は重要なる果物中リンゴと共に其の首位を占め、また梨酒の醸造も初まつたのである。一六〇〇年代に仏国に於て発達し出したマルメロ砧嫁接法は、おくれて英国に入り、十九世紀になつてから盛んに応用される様になつたのである。本邦では洋梨の結果期遅しとの嘆声しばしば起り、短気な人達は折角五年も六年も経た木を切り倒してしまう例をよく耳にするのであるが、洋梨の結果の遅いのは日本ばかりの話でなく、マルメロ砧による矮化促進法の知られなかつた頃は、英国でも”Plant pears for your hairs”（梨は子孫のために椊ゑよ）と云つたものである。今日梨の産地として世界に吊高いのは仏国、ベルギー及び北米加州であつて、仏白は栽培技術の上より、米国加州は天恵の気候によりそれぞれ風味絶佳の優品を産し、巴里、ロンドン、ニューヨーク等の大都市に供給して、食通を陶酔せしめつつあるのである。就中（ナカンズク）仏国のエスパリエー仕立の梨果は、世界に比なしと称せられて居る。
