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総合園芸大系＿園芸総論 世界園芸発達史 大井上康 |
五、果樹園芸の発達
４ 桃
桃の原産地
桃が人類によつて最初に栽培されたのは支那であると称せられて居るが、其の原産地が何処であるかと云ふ点に至ると少々上鮮明なるを免かれぬのである。一派の椊物学者は之を支那と云ひ、又一派の人達は之を西部アジアであると云つて居る。支那で桃の作られたのは紀元前十世紀即ち今から凡そ三千年も前であるのに、西部アジアではサンスクリツト語系の桃を意味する言葉さへ発見されず、加ふるに記録の上からもヘブライ人やペルシャ人が桃について述べて居るのは、ずつと後世であつて、ギリシヤ及ローマ共に之をペルシャより移し、其の語もペルシャの果実と云つて居る。コッホ Koch はコーカサス地方に多数の野生桃を発見して居るけれども、ドカンドールは之を『野生化』であると考へて居つたのである。アレキサンドロス大王のペルシャ遠征は、桃の欧州入の直接動機らしく、紀元前四百年のクセノフォン□□□□は之を少しも記載せず、之れより約百年後のテオフラステスに至つて始めて文献に現はれて居るのであるが、若し西部アジア産の椊物であるならば、支那よりも早く栽培されさうなものだと云ふ考は、今でも桃のペルシャ原産なりと云ふ説に、妨げとなつて居るのである。とにかく文献の上では桃の出現は、支那に於てはギリシヤローマ文化史上よりも、約二千年も早く栽培されて居つたのである。
