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総合園芸大系＿園芸総論 世界園芸発達史 大井上康 |
五、果樹園芸の発達
６ 柑橘
古代の栽培史
柑橘類は最も古い果樹であつて、栽培されてより既に四千年を経たとされて居る。欒柑（ブンタン）類は主として東洋が其の発祥の地であり、印度南方、馬来（マレー）諸島が原産地と目されて居る。又柑橙類蜜柑類は恐らく支那及印度支那地方であるらしい。それが欧州に入つた経路は、ガレジオ Galesioによれば、先づ印度よりアラビア人によりてパレスチナ、エジプト及南欧に入つたのであるがこれは甘橘ではないと云ふものがある。五世紀の頃セミチツク文化の栄えた頃に、アラビア農学者達の著書に現はれた記録では、此等の柑類は酸橙であつたらしい。甘橙（オレンジ）が白人に知られたのは、ヴァスコダガマが最初らしく此の事は一四九〇年頃の事であつた。甘橙が西班牙及伊太利に栽培される様になつたのは、一五二〇年頃であるらしいと云はれて居つたが、ゲーツエ Gozeによれば、第十四世紀には既に南欧に甘橙が栽培されたと信じてよいやうである。ギリシヤ人が甘橙を知つたのは、アレクサンドロスの遠征後であつて、ヘブライ人達は之をメソポタミアを通じて知つたのである。ローマ人達は多少栽培したらしいのである。レモン類は印度が原生地であるのは疑ひなきが如く、南方印度では有史前より其の果実は重用されて居つたと見られて居る。
柑橘を意味する欧州後中、西班牙は全くサンスクリツト語のナガルンガ Nagarunga から出て居る。（西語ではナランハ Naranja）之は他の欧州諸国を経ずにアフリカを経て移入されたのによるものと考へられる。地中海に面する地方は欧州及アフリカ共に柑橘の産地で特有の品種を持つて居る。米国へはポルトガル系の品種バイーアがブラジルから入つて、之がネーブルと称せられ、全米甘橙の大部を占めて居る。米国でも品種が作出されて来たが、近年カリフォルニアのウェッバー Webber は、甘橙と枳殻（カラタチ）とを雑種せしめてシトレンヂを作出し、又文旦や甘橙と金柑（キンカン）との雑種なども作出され此の方面に興味ある寄与をなして居る。又近年本邦でも温州蜜柑の芽條変異が続出し、早生系のもの大果系のもの多数発見せられ田中長三郎、野呂癸巳次郎氏は盛に之等の集収と研究を行つて居る。
