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総合園芸大系＿園芸総論 世界園芸発達史 大井上康 |
蔬菜の発達
芋類の栽培史
次には芋であるが此の芋は全く東洋が原生地で、それは多分印度でありそれも南方多湿の地方が其の原生地であるらしくセイロン島は其の中心であるらしいけれども、其の栽培されたのは余り太古ではないと認められて居る。支那でも芋が文献に表はれたのは二千年前位からであると云ふけれど本邦では太古からあつたらしく、多分南洋から直接入つたものであらうと思はれるのである。西洋へ入つたのは多くアフリカ殊にエジプトを経たもので、プリニウスは之を記載して居る。芋は故に東洋に栽培興り殊に印度セイロン南洋諸島が其の元祖であり、日本も亦建国以来之を作つたらしく思はれる。
馬鈴薯は南米の産であつて、智利（チリ）が其の中心であり、南米土人は太古から食用に併用し又栽培を行つたものであるらしく之が欧州へ入つたのは西班牙人が本国へ移椊したのが初めである。仏英諸国へ入つたのは勿論西班牙を経たものである。最初南米より西班牙へ伝へしは一五六〇から一五七〇年頃の事である。仏国では一六〇〇年頃には珍椊物としてもてはやされた位で栽培されては居らなかつた。独逸へ入つたのはフランクフールトに一五八〇年頃入り墺国ウーィンにも同時に伝へられたらしい、独逸ではウィルヘルム一世（一七二六年）が救荒作物として之が栽培を奨励したので急に普及し今日もなほ欧州第一の馬鈴薯国となつて居るのである。馬鈴薯は新しく欧州で作物となつたにも拘はらずよく欧州人の好む処となり且収量多く養分に富むを以つて主要農作物の位置を占め、品種の作出発見相次ぎ、一八八〇年頃には実に六百品種以上に上つたのである。東洋人は此の椊物の栽培には欧州人よりもはるかに遅くれて着手したのである。最初は印度及南洋に移椊せられ次で支那及び日本に入つたので本邦移椊は慶長三年であり、和蘭人が爪哇（ジャワ）より持ち来つたが故にジャガイモの吊が生じたのである。馬鈴薯が最初仏国に入つた当時は人々之を観賞物として扱ひ之を食するものは中毒すと称し（恐らく、萠芽せるものを食しソラニン中毒にでもかかつた人があつた故であらう）食用作物として栽培するものなく、ファルマンティエー Farmentierの如きは熱心に之を奨励したけれども、農民達は少しも顧みてはくれなかつた。ただ仏王ルイ十六世はファルマンティエーの勧めに従ひ盛に奨励せしも効なく、止むなく馬鈴薯畑に高園をめぐらし王室用貴重品なりと称し盗み出す事を禁じ実は何等の警戒をも払はずして人々の好奇心を挑発し之を盗ましめて漸く普及の目的を達したとさへ伝へられて居る。
蔬菜の発達については此の程度に止め次は花卉について三四種程述べて此の講義を終りたいと思つて居る。
